JETRO理事、平野氏に聞くアフリカ経済

日本貿易振興機構JETROの理事を務められてる平野克己氏にお会いしてきた。平野氏は、日本では数少ないアフリカ経済を専門とする研究者です。(ちなみに神戸大学の高橋基樹教授はアフリカ経済の専門家をEndangered Speciesと表現されたらしい笑)


本投稿ではアフリカを見る時に理解しておくべき基本的な考え方を紹介するとともに、後半では、平野理事へのインタビューを書き下ろしていく。特に後半では、アフリカを専門にしたきっかけから始まり、開発経済学者事情、アフリカの資源依存体制への疑問、などなど色々な質問議論をした1時間だった。 いくつか現段階で話せるものの中から抜粋して紹介したいと思う。





<アフリカ好きは理解できない笑>

平野さんの時代はやはり開発経済学者の大部分は、日本人は現在もそうですがアジアに向   かっていたかと思います。なぜアフリカを専門になさったのですか?

生産と消費が本当に傷んで、人の命が本当に危なくなる事態がどこにあるのかを考えたときに、それはやはり途上国で。当時の指導教授や博士課程の先輩方に相談したわけさ、"一番経済が困ってるとこはどこだろうか"と。 すれば答えは中国の奥地かアフリカだった。 それで、大学院を一年間留年してお金を貯めて、その金で行ける最も遠い最貧国にいったらスーダンだったんだよ。(笑)

あれ、スーダンから始められたんですか??

はは、それでスーダンって当時、観光なんかでは入れないから、VISAを取るために色んなところ、大使館にも足しげく通って推薦状を書いてもらって。 調査研究VISAってのを出してもらって行ったのさ。

だから帰ってきた時に、推薦状書いてくれた人や機関に挨拶にいったら、みなさん”君誰だ??”って笑 僕はもうスーダンで痩せこけて肌も真っ黒になってたから笑 ”ああ君か、生きて帰ってきたのか”って大使館が。死ぬと思ってたんだと笑

そこからずっとアフリカ。だから正直好きでアフリカをやり始めたんじゃなくて、一番困ってるところがたまたまアフリカだった。 もう数十年アフリカ一本だけど、あまりシンパシーはないんだよね笑 うちのアフリカ研究者はみんなアフリカ好きだけど、全然理解できない。笑

そこからずっとアフリカですか、、 理事にまで上り詰めたんですね。

いやいや、こき使われてるだけだよ笑


<慶應は開発経済学では強いはずだ>

これまで経済発展論という名前で研究されていた開発経済は対象を主にアジアにしていた。一方で英語圏の主要な研究対象はアフリカだった。ここが日本が開発経済学でいまいち存在感のない理由だったりすると考えてるんだよ。

ただ、この状況が2000年代から変わってきて、っていうのも当時の若い人たちがアメリカに留学し始めた。Ph.Dをとって戻ってきたのがこの時代で、IDEの研究者もそうだけど、アメリカで最先端の研究を学んで帰ってきて、ようやく日本の開発経済学の国際標準化が始まったわけ。

そもそも日本の大学では開発経済学の講座を持つところも少ない。東大ですら澤田康幸氏がきて、ようやく本格化した。 ただ、その観点でいけば慶應はすごく強いんだよ。澤田さんも慶應出身だし、IDEASの山形氏も、とにかく開発学者に慶應は多い。 慶應の高梨先生からくる流れが今でも生きているんだとおもう。



<歴史を知れ>

アフリカの経済成長はかなり資源価格に依存しています。実際、両者の相関係数をとると0.93ほどで、これはほぼ同一とみれます。 この資源依存体制は将来的に変わるべきなのでしょうか。

まずそう簡単には変わりません。この問題を語るときに、政策論で考えるのも大変重要だけれども、一番大切なのは歴史をみること。 変わった国はどこにいて、変わらなかった国はどこなのか。中東とかね。というか実は殆どの国は資源依存から変わってないんですよ。

  だからこそResource Curse資源の罠なんですね。

そう。でも変わった国はある。それがマレーシア。あそこは産油国だったのに今じゃ立派な工業国だからね。決して変われないわけではないってこと。

経済学で政策論を作るのはいいんだけど、そこで抜けていけないのは歴史なんだ。大きな傾向としてね、やっぱり経済学者は歴史をあまり見ない、知らない。僕らみたいな地域研究者はまず歴史から入る。 経済学の人間が現場に関わりたければ、歴史は避けてはならない道。

  まさにJeffry Sachsのようにという感じですね。

そう。そもそも、開発のリアリティはかなり技術的な、それこそ理科的な話が多いでしょう。そのなかで、開発政策に携わる開発経済学者、開発人類学や社会学の人間も机上の空論に陥らないように気を付けなければいけないよね。 開発政策っていうのは、人の社会をいじくることなんだから。

だからこそ、専門性の深さがこの世界では常に問われる。よくいる開発学を専攻にしている学生、あれはすなわち専門性がないことと私は理解していますよ。



<経済開発の主役は民間セクター>

開発における民間セクターの役割は今後拡大していくのでしょうか。

実は、民間セクターの役割ってのは昔から大きい。 成長率があがるってことは、つまりその経済で生産する付加価値が増えるってことでしょう。で、その付加価値は生産者によって作られるのだから。要するに企業と農民。

ここで、開発の議論が必ず農業から始まるわけ。 だって開発の初期では人口の80%が農民なんだから、農業の付加価値、生産性を高めることから議論しなくちゃいけない。

ただ大事なのは、農業から他産業へのシフトを操作できるかどうか。社会主義下での計画経済では政府が主導して失敗したでしょう。だから結局、政府の役割というのは直接的なものではなくて、インセンティブをいかにつけて、間接的に操作できるかに集約してくる。 これが経済政策論の基本なんです。 だから開発後期はほとんど民間セクターの議論になってくるのが自然な流れですね。



<輸出農業は最先端産業>

アフリカからの国際貿易輸出はほとんどが資源で、一次産品はかなり限定的です。JICAの一村一品運動など、農業輸出力強化に注力するのはなぜなのでしょうか。

輸出農業ってのは途上国の世界ではないんです。あれは先進国の産業なんです。世界一の農業の輸出額が最も大きいのはアメリカ、次いでオランダでしょ。ブラジルは頑張ってるけれども。 そういうこと。

開発の初期にある増産はどこに向けてするかといえば、国内なんですね。アフリカは典型的だけど、低開発の国は自国で食べる分すら生産できない。

国内の食料自給が成立しないかぎり、労働の比較優位が発生しません。労働の比較優位が発生しなければ、製造業はおきない。歴史上、近代農業革命を起こしていない国で、産業革命を経験した国は一か国ともない。

だから、とかく農業技術支援というと輸出を伸ばして外貨を獲得していくことを考えるけども、あれは開発の議論からすればとんでもない間違いなんですよ。

<開発に飛び級はない>

農業の生産性向上に伴って、余剰労働力の都市流入がおこります。その分雇用が生まれなければ、失業率は高まるのではないでしょうか。

なぜ失業が生まれるかといえば、雇用者側にとって、労働者に魅力がないからですよ。つまり比較優位がない。

アジアでは経済成長があればすぐに完全雇用になる。それは労働の比較優位を原動力にして経済成長を始めたからなんだよね。

じゃあなんで、アフリカでは労働に比較優位がないのかといえば、それは農業が低開発だから。

農業が低開発だと食料価格が上がってしまって、労賃が高くなるから。

実際、サブサハラの軽工業や農業就業者の賃金は東南アジア諸国のそれよりも高いですからね。

そのとおりで、僕はよく言うんだけど、開発に飛び級はないってね。農業もままならないのに半導体作ろうたって絶対に無理でしょ。一歩一歩昇るしかない。



<ルワンダの逆転案>

ルワンダでは農業と同時に、IT産業にかなりの力を入れています。これは平野さんからみれば、飛び級なのでしょうか。

同時進行ならば問題はないとみています。例えば戦後の日本では、コメ増産運動と工業化を同時に進めた。アジアでは顕著だけど、急激な成長を経験するときは農業と同時に何かをやってます。

中国なんかもそうで、工業ばかり注目されるけど、実はコメの増産がすごい勢いで進んだんだよね。

ただ、ルワンダはコーヒーとか商品作物に投資は集まってはいるけれども、食料自給はできていない。ブルンジ、ウガンダと共に大地溝帯って、アフリカで唯一土壌がいいとこなんだから、ものすごい恵まれてて。だからあそこだけ人口密度高いんだけども。 だからもしかしたら、上手くいけば自給が達成できる。そうすればルワンダにしても、内陸諸国の宿命でもある輸送コストの問題を逆転して、ものすごい外貨収入に繋げれるかもしれない。

<カガメの政策は弱肉強食>

開発、アフリカへの携わり方として、ニーズのあるもの、ことに取り組んで行きたいと考えています。経済成長にともなって、御話にもあるように労働力の都市流入に伴う失業が発生します。で、雇用自体は伸びているはずなので需給のミスマッチによる失業ではなく、情報の不完全性が問題なのではないかと思い、そこを解決するモデルを考えているのですが。

私は情報の不完全性ではないと思いますね。雇用者の絶対数が足りないんですよきっと。ルワンダにはそんな吸収力ないよ、バンバンもの作ってるわけでもないしね。

ルワンダの経済成長は非常に評価されるべきものだけども、ある意味で全員を救おうという形の政策ではないのかもしれない。ポール・カガメは非常に優れたリーダーだけれどもね。どちらかと言えば、強いものを重視する政策を進めてるように見える。非難するつもりは全くないけど。

エチオピアなんかは東アジアにならって軽工業化を進めようとしているけども、地理的な問題から農業が発展しないこともあって、なかなか上手くいってない。カガメはもしかしたら、自国に労働比較優位がないことを理解したうえで、あえて現状の政策をとっているのかもしれない。


<びびんな日本企業>

日本の国策として、インフラや資源エネルギー以外にどこに注力していくべきなのか。

国策としてはない、自由主義経済ですからね。現在の安倍政権、JETROがやろうとしているの各企業がBusiness Oportunityを見つける手伝いや提案を積極的に行うということ。

ただ、なかなかアフリカに出ていく企業はいないよね。笑 

だって、アフリカで新幹線なんてナンセンスでしょ。笑 このまえ、インドネシアの新幹線の案件で中国にとられたけど、あれは絶対儲からないからね。そもそもあんな案件を受注すること自体センスがないんだよ。笑

そこで我々が今考えてるのが、例えば都市設計、ごみ処理、汚染対策とかなんです。水ビジネスとかね。まあ、手を挙げてくれる日本企業がいなければアイデアで終わるんですが。。。


<ビジネスチャンスはどこに>

正直、先ほど話した労働者と雇用者のマッチアップはどう思われますか。

類似サービスがなぜないと思いますか。おそらく必要ないんだと思うんですよ。 昔からアフリカのコミュニケーションについて言われていることで、口コミの強さがあるんですね、携帯電話はこの文化にぴったりとあったからこそ、どこよりも早いスピードで広まったからね。アフリカ人にとって最高の娯楽は話す事ですから。

市場というのは、現場のParticularityに応じて設計されているんだから、まず現場にいってみることが重要だよ。

ただ一つ、僕は前から思ってるんだけど、日本のモノ作り大国としての評判はアフリカでも大いにある。 だから中古品でもものすごく評価されるんだけど、ちょっと前まで日本人誰もやらなかったんだよね。 最近ようやく日本の青年実業家が活躍しているけどね。 だから家電とか文房具、中古車はもっとやればいいなって思う。BeForwardみたいに。笑

非常に刺激的だった。Blogなのでかなり緩く書いてるけど、実際はかなり白熱した議論で、というかほとんど僕がタコ殴りにされている状態の1時間でした。本当に感謝申し上げたい。

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